大判例

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高松高等裁判所 昭和43年(う)177号 判決

判決理由

本件争議突入までの経過、および被告人らが車検、キイを集めて組合側でこれを保管するという手段をとるに至った理由については、被告人らは正当な経済的要求をかかげて会社側と辛抱強く交渉をかさねて来たが、会社側の不誠意によりついに妥結するに至らず、やむなく争議にふみきったものであり、車検、キイを集めて組合側でこれを保管するというような手段に訴えたのも、会社側の悪質な切り崩し工作のため従業員一三名中組合員四名という劣勢に立たされた被告人らとしては或る程度やむを得ない行動であり、同情の余地のあったこと、

被告人らが本件車検、キイを収集するにあたっては何等威力を用いておらず、これに対する会社側の返還要求は、九月八日に口頭で二、三回と書面で一回、こえて同月一六日書面で一回あったきりで、書面はただ手渡すだけであったし、口頭による返還交渉もほんの立ち話し程度であったから、これを拒絶するに威力を用いる必要もなかったし、組合員の団結による自然の威力はあったかもしれないが、特別に威圧を示すような行動は何もなかったこと、又会社側の返還要求は一応返還を求めておくという程度のもので、その返還を受けてすぐ操業にかからねばならないというような真摯なものとはみられなかったこと、

車検、キイの保管の態様としては、八日、九日にかけて一晩だけは支部事務所のロッカーに保管したが、九日の晩からはとにかく会社側の要求どおり、各車両の中で保管したのであり、ただそのことを会社に通知せず、また車両内の発見しにくい場所に置いたに過ぎないこと、

被告人らは組合員らとともに車庫の一隅で座り込みを続けたけれども、非組合員の車庫内立ち入りは自由であり、社長らによる車両点検等の行為を妨害した事実もないこと、

被告人らが本件車検、キイを組合側で保管するようにしたのは、ピケ態勢の手薄を補強するためであったのであり、もし非組合員が被告人らの説得をきかず、あえて就労を求めるような場合には、車検、キイを引渡さないことにより無理にその就労意思を阻止するような不法に発展する虞はあったのであるが、現実には非組合員らは極めて組合に協力的であり、簡単な説得によって納得し、誰も就労しようとしなかったため、車検、キイを組合側が握っているという事実を説得の手段として全然使わずに終っていること、

次に検察官は、自動車の運行に必要不可欠の車検、キイを占有するのは、自動車そのものを占有するに等しく、それは会社所有の生産手段(運送手段)に対する会社の支配をほしいままに排除する違法な行為である旨を強調するが、会社側の車両点検等の行為はごうも妨害されたわけではないし、そもそも生産手段はそれのみでは何の効用も発揮し得ずこれに結合する労働力があってはじめてその効用を発揮し得るものであるが、労働争議においては、組合側が非組合員等を説得してその就業を阻止することによって所有者たる企業主の意思に反してその雇入れに係る労働力と生産手段との結合をたちきり、その生産を妨害することは、一般に違法性のない争議行為としてこれを認めているのであるから、この生産手段を組合側で占有し、これに労働力を近づけないよう予防するという争議手段をとることも一がいに違法とはいいきれず、やはり諸般の事情によってその違法性を判定すべきものであると考えられるところ、本件においては、非組合員が本件争議に協力的であり、あえて就業しようとしなかったため、生産手段と労働力との結合はすでに初日で破れ、会社側は、九月九日以後は毎日二名程度の労働力は確保できたが、この程度の労働力を使うのに、組合側のピケを排除してまで自社の車両を使用する必要もないとし、その労働力に見合うだけの車両を他社から借りて営業することとし、なお不足する分については、臨時の従業員を雇うようなこともなく、運転者付で車両を借りてこれを補うという方法をとったのであるから、会社側には車検、キイの引渡請求を強く要求するまでの意思はみられず、争議解決までこれを組合側に保管させても会社側にさしたる不利益はなかったものと考えられ、組合側が車検、キイを保管したことにより、会社経営の根幹を動揺せしめるとか、労使の対等をそこなうとかいうこともなかったこと、

等の事情を考慮すると、被告人らの本件行為は未だ社会生活上の常規を逸脱した不当のものとは考えられず、刑罰を以てこれを禁圧しなければならない程の違法性を具備した行為とはいえず、被告人らの所為は不法な威力というには当たらないので、結局罪とならないものといわなければならない。

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